研究テーマ

分析化学とは、化学にとって重要かつ未解決である現象の解析のための新しい方法論を開発する学問領域であり、分析化学における研究対象は極めて広範囲です。本研究室では、生命現象から地球環境・エネルギー問題までの幅広い分野で活用できる分離・分析法の開発と、それを通した、自然科学における新しい原理・法則の発見を目指します。

前田教授

人工膜系における電位振動の同期と伝播

 

 

心臓・膵臓細胞や神経細胞では,膜電位が振動すると同時に,複数の細胞間で振動が同期・伝播することで,器官としての機能を果たしています.私たちのグループでは,液膜のような人工膜系を用いて、細胞間のシグナルの伝播と同期のモデルとなる電位振動反応を電気化学的に解析しています.

細胞膜におけるエネルギー変換の
人工膜系モデルの確立

 

呼吸・光合成など細胞膜で生じるエネルギー変換では,イオンの膜透過と電子の膜透過の共役がエネルギー変換の効率を制御していますが,それに着目した研究は限られています.私たちのグループでは,イオンと電位の膜透過の共役に注目し、人工液膜系のモデルを用いて両者の共役の原理、ひいては、エネルギー変換の熱力学、速度論についての新しい知見を獲得しようとしています。

様々な膜におけるイオンの膜内拡散の定量的評価

 

イオン性分子の膜透過は,さまざまな官能基を有する膜内をイオンが垂直方向に移動することで生じます.しかし.膜が薄い場合,膜に対して垂直方向の移動を解析することが難しくなります.私たちのグループでは,果実の表面に存在するクチクラ膜,電池のセパレーターとしてで用いられるナフィオン膜など,様々な膜のイオン透過を,液液界面イオン移動ボルタンメトリーという電気化学的手法を用いて解析しています.

電気化学発光を利用したエマルションの動態解析

 

 

エマルションは,混じり合わない溶媒を界面活性剤で分散させることによって生じた準安定状態です.そのため,時間が経つとエマルションのサイズや構造が変化します.私たちのグループでは,電気化学発光を利用して,時々刻々と変化するエマルションのサイズを定量化することに成功しています.同法を用いて,これまで解析できなかった短寿命の不安定なエマルションの解析を試みています.

難溶性銀塩を利用した
各種イオンの電気化学測定法

 

アニオンは金属カチオンに比べて分析法が限られています。銀イオンは,ハロゲン化物イオン,硫化物イオン、ヒ酸・亜ヒ酸イオンなど様々なアニオンと難溶性塩を作ります.銀電極表面における難溶性塩析出・溶出反応を利用して,これまで為しえなかった複数のアニオンの同時に定量する電気化学定量法を開発しています.

吉田准教授

簡易迅速検査用イオンセンサの開発

 

遠隔医療や自動化した生産現場では,検査室ではなく,患者の傍らや現場で,迅速に測定することが求められています.私たちのグループでは,分析の専門家でなくても精確に測定できる,使い捨てイオンセンサを開発しています.イオン伝導ー電子伝導変換物質(無機インサーション物質,導電性高分子)を利用することで,印刷技術でイオンセンサの多量生産が可能になりました.

酸化還元しないイオン性分子の電量測定法の開発

 

 

多くの分析法は,標準試料を用いた検量線を必要とします.しかし,貴重な試料になると,検量線を作成するための標準試料が少ない,またはないという条件で分析をする必要があります.私たちのグループでは,わずか1μLの試料にふくまれているイオン性分子のモル物質量を,検量線を用いることなく測定できる電量測定法を開発しています.

イオン対分配モデルに基づいた膜透過機構の解明せれ 

 

 

薬物の膜透過性は,薬理特性とともに重要な生理活性に関わるパラメータですが,薬物の多くがイオン性であることから,イオン性薬物全般の直接膜透過を物理化学的に予測できる膜透過理論が切望されています.私たちのグループでは,カチオンとアニオンの対が膜に分配するとした仮定(イオン対分配モデル)に基づいてイオン性分子の膜透過理論を構築し,世界で初めて脂質二分子膜を用いて実験的にこれを証明しています.

脂質二分子膜における膜透過電流ー膜透過蛍光  シグナル同時測定法の開発

 

細胞膜の基本骨格である脂質二分子膜でのイオン透過は,従来から膜電位をかけて膜透過するイオンを電流として測定する電気化学測定法で解析されてきました.しかし,電気化学測定法では,どのイオンが膜透過しているかを知ることが困難でした.私たちのグループでは,イオンが透過する様子を,膜透過電流とともに膜透過蛍光シグナルとして測定する蛍光ー電気化学測定法を開発し,蛍光修飾している分子の膜透過を解析することに成功しています.

リン脂質小胞におけるイオン性薬物の動態制御

 

イオン対分配モデルに基づけば,共存する他イオンの濃度を代えることで,ターゲットとなるイオン性薬物の膜透過性を制御することができます.私たちのグループでは,イオン性分子のリン脂質小胞(リポソーム,ベシクル)への濃縮・放出を,小胞外部のイオン組成を変化させることで実現しています.現在は,抗がん剤の薬物投与法への応用を試みています.本技術は,京都工芸繊維大学の単独特許として出願中です.